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【知恵の森】ゴキブリは豊かさの象徴だ!『害虫の誕生―虫からみた日本史』瀬戸口 明久 (著)

2011-03-05 08:43


日本初の国語辞典「言海」の初版には「害虫」という項目がない。
「害虫」というカテゴリーが確立したのは明治後期。それまでは害虫を駆除するという発想がなかった。それどころか、害虫という言葉そのものが存在しないと著者はいう。

本書は、近代化の過程で、“虫”は次第に人々の手によって排除の対象となっていく過程を解説。日本において虫がいかにして“害虫”になったか科学と社会の両面から考察し、人間と自然の関係を問いなおす手がかりとなる一冊です。

著者は、京都大学理学部(生物科学)卒業後、同大文学部(科学哲学科学史)卒業。同大大学院文学研究科博士課程修了。現在、大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。生命科学と社会の界面に生じる諸問題について、科学技術史と環境史の両面からアプローチしている。共著に『トンボと自然観』がある瀬戸口明久氏。

人間が害虫とどう向き合ってきたのか、害虫が人間とどう関わってきたのか独自の視点で展開する。何が害虫で、害虫でないのか、その「境界線」は時代によって常に揺れ動いていることがよくわかります。

例えば、現在では想像もつかないが、「ゴキブリ」は戦後になって害虫イメージが広がった。食料のある家にしか寄っていかなので、それ以前は豊かさの象徴でした。「チャバネゴキブリ」を「コガネムシ」と呼んでいた地域もあったという。

明治時代以前、虫は自然発生するものだと考えられ、虫による被害は「天災」と位置づけられた。それを防ぐ方法は田んぼにお札を立てるという神頼み。害虫を人間の手で排除するようになったのは明治以降です。近年は、科学的が発達し、薬剤で害虫を駆除するが、あらたな害虫が出てきた。「ツマグロヨコバイ」という害。それ以前は「ニカメイガ」など、もっと重要な害虫がいたが、ある害虫をターゲットにして農薬をつくって駆除すると、また新たな害虫が出てくる。結局はその繰り返しを行っている。

「害虫」=悪という概念や価値観は、時代による社会的な利益によっていくらでも変容してきたものである事がわかる一冊です。虫嫌いの人も読み物として非常に面白く引き込まれる逸話が満載ですので、怖がらずぜひ読んでみてください。あなたの認識が変わるかもしれません。



目次

第1章 近世日本における「虫」
(日本における農業の成立江戸時代人と「蝗」虫たちをめぐる自然観)

第2章 明治日本と“害虫”
(害虫とたたかう学問明治政府と応用昆虫学農民VS明治政府名和靖と「昆虫思想」)

第3章 病気―植民地統治と近代都市の形成
(病気をもたらす虫植民地統治とマラリア都市衛生とハエ)

第4章 戦争―「敵」を科学で撃ち倒す
(第一次世界大戦と害虫防除毒ガスと殺虫剤マラリアとの戦い)